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名古屋の昼と夜 その②

 さて二日目。名古屋といえばモーニングなので、ホテル近くのコメダ珈琲で朝食。安いけど、コーヒーはあまり美味くない。

 8時半頃ホテルを出て、電車でセントレア空港に向かう。しばし空港内を見学し、高速船で三重県の津まで行って、津の町を散策。しかるのち、名古屋に戻って競技場に行くという、今日は面白い予定を組んでいるのだ。

 セントレア空港は日本の中でもひじょうに新しい空港で、エンターテイメントが充実しているらしい。昔、仙台からここへ飛んできたときには知らなかったのだが、本物のジェット機が展示されていたり、デッキに上がると、日本でもいちばん近くで飛行機の離着陸を観られるということだ。あいにく朝から雨模様なのでデッキに上がるのは取りやめにしたが、室内に現役引退したボーイングが展示されていて、それを間近に観られるのは楽しい。希望すればコクピットも見学できる。飛行機好き、子ども連れには最高ではないか。実際、子ども連れが多く、飛行に乗る目的ではない人も多いようである。

 この空港の面白いところは、「津エアポートライン」という高速船が発着することだ。この船があることで三重県の人への便宜を図っている。津から電車を使うと2時間くらいかかるが、船だと45分。

 セントレアを調べていてこれを見つけ、津に行ってみようと思ったわけである。以前、津に行ったときは、いいところだと思ったけど、駅周辺しか分からなかったしね。友人は城好きなので、とくに津城に行ってみようかと。城とはいっても、サイズは小さくて城跡に過ぎず、ほぼ公園となっているだけなのだが、歴史を見ると築城名人と謳われた藤堂高虎がかかわっているので興味が湧く。

 津城趾は駅から行くよりも津の港からのほうが近い。港から歩いて津城趾に行き、そこからまた駅に行くのがいいんじゃないかと考えた。もうお昼過ぎ。当初は津は餃子が有名らしいのでそれを食べたかったのだが、近くにそれらしき店などまったくありそうもない。港内にある小さなレストランで軽食をとり、それで済ませた。

 で、歩き始めたのだが初めての道はとても遠く感じる。でも初めて観る景色なのでそれもまた面白い。やがて大きな道路に出たので、津の中心も近いのかなと思っていたら、ある角で唐突に石垣と櫓が見えた。津城趾だ。16世紀、おもに織田と豊臣家一族が保有していたのだが、徳川の世になり藤堂家のものとなった城である。城趾の入り口に藤堂高虎の句碑があり、奥の方に高虎の遺訓がやはり石碑となっている。本丸付近には伊達政宗のような馬上像まである。もちろん現代になって津市が建てたものなのだが、この地では「高山公」と呼ばれ、藤堂高虎は僕なんかが想像もつかないほど崇拝されているのである。

 小さい頃に知っていた範囲では、藤堂高虎という武将は関ヶ原の論功で家康の覚えがめでたかったくらいのものだったが、知るほどになかなかの人物であることが分かってきた。とにかく真面目で有能。とくに築城にかんしては相当だったようで、津、宇和島などはもちろん、セミリタイアしてからも、大阪城、二条城などの改修を委任されたりもしているのである。

 その真面目さは遺訓を読んでも分かる。城趾に残されたのは一部だけれど、代表的な一文で、中身としてはこうだ。

武士たる者は朝起きたときから死を覚悟せよ。そういう覚悟があれば物事に動じることもない。

 いやあすごいね。でも僕としては句碑のほうが好きなのだが。

「しらはたや 花さく山の 一備え」

 この句の解釈ははっきりしていないようだ。関ヶ原の一戦の光景を詠んだものだという説が有力らしいが、僕個人はちょっと違うんじゃないかと思っている。まあ、それはともかく、何というか軍人としてもすごいが、文人としてもなかなかだと思わせる。この人の辞世の句がないのが残念だ。

 ということで、空港でも、津に着いてからも歩き通しで、すっかり疲れたわれわれだが、運良く駅に行くバス停を見つけ、これに乗って津の駅へ。そしてまた名古屋の競技場に向かったのである。

 名古屋に戻ると、止んでいた雨が再び強まっていた。この日は6000円のC席。最上段のほうだが、幸い屋根が張り出していて濡れる心配はまったくない。しかも、バックスタンド側とは言え、ゴールのあたりは見えるし、すべての競技がまんべんなく見渡せる。昨日のB席10000円よりもはるかにいいではないか。まったく、実際に会場に来てみないと分からんもんだね。

 気の毒なのは一番高い席を予約していた人たちである。確か15000円か20000円くらいの席でスタンド最前列だが、屋根がないので強い雨にざんざんと打たれ放しなのである。ほとんどの人はカッパを着ているけど、中にはカッパを用意していないのもいる。本来、僕たちもああいう席を予約するはずだったのだが、取れないで良かった。しかし皮肉なものだ。最高の席のはずが最悪なのだ。世の理にはこういうこともあるのか。 

 この夜は席が良かったからみな面白かった。印象的だったのは、男子110ハードル、女子100ハードルかな。スピード感がすごかった。翌日の決勝も面白かったよね。それと、男子200m。タイのブーンソン選手。前日の100mですごい記録を出し、200mも本命。当然負けない。すごいよね、まだ20歳。彼なら世界と戦える。オリンピックが楽しみだ。 

 もちろん、村竹ラシッドも福部真子も中島ひとみも、出てくれば応援するけれども、このタイの若い選手に対して僕ははものすごく誇らしい気持ちになった。日本人ではないけど、アジアの誇りだなあと。何というか、このアジア大会で感じたのはこういうことでもあった。

 たとえば、種目ごとの表彰式があって、そのたびに観客は起立して国旗掲揚を見届け、そして拍手を送る。たとえ、それが中国であっても何でもそうで、座ったままの観客など一人もいないのだ。もちろんブーイングなどありはしないし、ひとたび起立してセレモニーが終わるまで話し声も一切ない。試合後の整列を拒否するとか、そんな国もある中で、こういうところが日本人の良いところだなとしみじみ思う。

 あるいは、オリンピックではまず聴いたことのない国歌を聴くことになる。中国などの強国は聴く機会が多いけど、今回バーレーンとかイランとかの国歌を初めて聴いた。イランの国歌はとても良かった。ああ、そうか、こんなふうに自分の知らない国歌がたくさんあるんだ。東京に帰ったら世界の国家を集めたCDを探してみようと思った。と思ったら、これが、内外でわんさかあるのだ。岩城宏之指揮のN響によるものまであるよ。

 ということで、席に恵まれ、楽しい2日目だった。が、歩きに歩き、この日は20000歩以上歩いた。ゴルフでも何でも、一日にこんなに歩いたことはないんじゃないか。昔山登りしてたときはどれくらい歩いたのだろうか。当時は万歩計なんてなかったしなあ。

 で、もう酒が飲みたいと思い飲み屋に寄ったんだけどね、帰るときには市内に戻る電車が終わっていて、タクシーを呼んでホテルに帰った。楽しくも長い一日だったなあ。

 次の日は帰るだけ。朝食を兼ねて駅ナカのきしめん屋(「駅釜きしめん」)に行ったのだが、地下街で散々迷い、汗も掻くほどだったので、冷たいきしめんを頼んでしまった。ちょっと僕のイメージよりも味が濃かったかなあ。いつも行く「住よし」のきしめんと比較できないのが残念だった。

 名古屋に入るときにはうなぎ、出るときにはきしめん。味噌カツは嫌いだから除外対象なので、これで味噌煮込みうどんを食べれば、僕の名古屋メシはコンプリートだったのだが、なかなかそうもいかない。外国人が日本で訪れるエリアで、名古屋は9位なんですと。昔から「名古屋は素通り」と言われて、確かに観るとこは少ないんだけど、僕は名古屋メシがやっぱり好きなんだよね。

 というわけで、特別編の名古屋シリーズはこれで終わりです。

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